京町屋の魅力〜おだいどこの神様編〜

維持の難しさから、年々住居としての姿を消して行っている京町屋。

しかし一方で、町屋カフェや町屋のイタリアン店など
最近ではすっかり食の店としての用途が広まっています。
食事と"京都らしい雰囲気"の両方を味わえるのが人々を惹きつけているようです。

今日は、そんな日常と非日常の狭間の空間を作り出す「京町屋」の魅力を"台所"に絞ってご紹介します。

これを知れば、町屋ごはんがもっと楽しくなるかもしれません。




町屋といえば、
「鰻の寝床」と呼ばれる細長い廊下のような造りが有名ですが、この縦に長い箇所は「おくどさん」と呼ばれる釜戸があり、台所になっていることが多いです。

よく見ると、火を使うこの「おくどさん」の周りには、このようなお札が必ずと言っていい程貼られています。

これは愛宕山(あたごやま)山頂にある愛宕神社の「火の用心」と書かれた護符なのです。
現代では、おくどさんに限らず、厨房や台所の壁などに張られていたりもします。
愛宕山は、京都人に「あたごさん」の愛称で親しまれる大変身近な山ですので、京都随所でこのお札は見かけることができます。


また、おくどさんの上には荒神棚と呼ばれる棚があり、ここにも火伏せの神様が祀られます。
それがこれ。「布袋さん」です。

一般的には、布袋さんといえば七福神としてのイメージが強いのではないでしょうか?
京都の町屋では、火事の守り神として扱われています。

これらは、古くから土人形の製作で名を馳せる伏見で作られましたので、
家を建てたら毎年2月に伏見稲荷大社にお参りし、その近辺で売られている布袋さんを、1年ごとに小さいものから大きいものへ、ひとつずつ七福神にちなんで7つまで集めるのです。
7つ揃う前に不幸があれば、また1から集めるのが本来の習わし。


おくどさんひとつをとっても、火の用心に対するこれほどまでの念の入れよう。
京都の町人たちの防火意識の高さがうかがえます。



トイレの神様」という歌が流行ったのはまだ記憶に新しいことですが、
これらの「おだいどこの神様」たちも、昔の人々はあらゆる所で神様と共存することで、日々の生活の質を維持してきたのだということを私たちに気づかせてくれます。
そうして積み重ねてきた知恵と悠久の時を感じられる――これが京町屋の魅力のひとつでしょう。

上森 五葉